「デザイナーであって、デザイナーでない。設計部であって、設計部でない。私たちは、編集者であり、プロデューサーであり、コンダクター(指揮者)です」
果たして、この言葉の意味するところとは?
PhilDoの設計部のスタンスについて、設立当初から数々のプロジェクトを手掛けてきた社員に伺いました。
HakoBaは、富士銀行函館支店(1932年建設、函館市景観形成指定建築物)と旧はこだて西波止場美術館(1986年建設)の2棟を再活用したシェア型複合ホテルです。銀行は1968年からホテルとして利用されていましたが、2010年以降は閉館状態。美術館も2011年に閉館していました。この2つの建物のオーナーから地場の建設会社に有効活用の相談があり、そこから事業化のお話を頂いたのがプロジェクトの始まりです。
このプロジェクトは、事業全体のスキームを構築するところから企画しています。「なぜ宿泊施設にすることが有効なのか」「宿泊施設にするために必要なステップは何か」「ホテル運営は誰が行うのか」などを含めた総合的な提案を行うとともに、実際の設計デザインや管理業務を手掛けました。
今のような形に落ち着くまでには、実はプランの段階からかなり時間が掛かったんですよ。というのも、銀行だった建物の方は耐震強度が不足していたり、アスベストの問題もありました。ホテルが閉館になった後の期間が長かったこともあり、表面的にも傷みが結構あって。実際に内装を解体してみないと完成像が見えてこなかったので、いったん提案していたプランの進行をストップし、スケルトンにしました。そうすると、思った以上に昔の建物の面影が残っていたんです。つまり、銀行時代のデザインが生かされずに、そっくりそのまま壁の中に埋め込まれていた状態でした。ある意味「よく隠したなぁ…」と思いましたね(笑)
他にも、かつてホテルに用途変更した際に“正しい”増改築の届けが提出されていないことが分かったので、法的にも、構造的にも問題のない状態にクリーンアップしなければなりませんでした。
現代に必要な機能を持たせつつ、当時の意匠をどこまで生かせるか。BANK棟(銀行)にはセキュリティー用のシャッターやレトロな蝶番が残っていたり、窓枠や梁などに当時のデザインが刻まれていたので、それらをよりしっかり生かす方向で設計しています。ただし、意匠を残すがゆえに客室に必要な断熱処理が施せないといった制限も出てきたので、そちらはラウンジとして生かしました。
一方で、DOCK棟(美術館)はスキップフロアという少し特殊な建築構造になっていました。そこでこの階段は残し、それ以外の内壁は撤去。宿泊施設に用途変更する上で欠かせない給排水、換気、空調設備を新たに設置して、どこに客室やリネン室を配置するのがベストかを考えました。
人と同じだと思うけれど、建物も長所を見付けてあげることが大切です。足りないものは、建築技術やプランでカバーしてあげればいい。やりたいことと長所をどのように絡ませるか。それがPhilDoの提案設計であり、デザイン、コンサルだと思います。
この2つの建物は地元の人たちにとって記憶に残る場所であり、函館の象徴的な場所なんですよね。「時代を継承していきたい」という要望もあったので、銀行の看板やホテルニュー函館の外看板をモニュメントとして残すことにしました。BANK棟とDOCK棟をつなぐ通路はガラス張りになっているので、そこに銀行の看板を移設して町を歩く人が気軽に見られるよう配置しています。
写真上:内装を解体した当時の写真。
写真下:銀行時代の看板も採用。
クライアント目線の考え方を持った提案・設計することじゃないかな。請け負い業務だけでなく、一歩でも二歩でも川上に近づくこと。川上というのは上から目線ということではなく、クライアント目線で一緒に考えて作ることだと思うんです。私たちは、もしクライアントに強い要望があったとしてもそのメリット・デメリットについてしっかり伝えて理解して頂くように心がけています。逆に「もしかして、こういうことに困られていますか?」と提案することで、クライアントにより近づくことができる。同じ方向を向いて、立場を分断することなく考えて行くことで、出来上がるものは全く変わってくるんです。求められていることに応えようとするなら、それは建築設計やデザインの枠を超えたお手伝いをすることかもしれません。
立ち位置を決めてしまわないということですよね。設計はしていますが頭の中は「設計部」とはいう感じではあまりないですね。PhilDoでは開発業務そのものを代行することもありますし、その考え方を踏まえた上で設計に携わることもあります。デザイナーという立場にこだわらないで案件に参加していくこと自体に、PhilDoの業務の面白みがあるんじゃないかな。新しくPhilDoに来る人に、部署名を考えてほしいくらいですね(笑)