PICK UP CONTENTS#02
上士幌町の豊かな自然環境と観光資源を最大限に活用した観光プロデュースや、町有地の開発設計のコンサルティングを行った実績をご紹介。
[取材・編集 / 長谷川 みちる]
ゆらぐ地方。
求められる「まちづくり」の力

豊かな観光資源と自然に恵まれた十勝管内上士幌町。農林業を主産業に発展してきたこの町は今、ピーク時の40%以下まで人口が減少し、いわゆる「過疎地域市町村」に該当している。北海道内の多くの地域がそうであるように、上士幌町もまた、少子高齢化や首都圏への人口流出の波に押されてきた。

人が集まらなければ仕事がなくなり、町の基盤は揺らぐ。基盤が揺らげば、町を動かす機能や人々の活気は失われ、さらなる人口減少を招きかねない。

そのような危機感が募る中、同町では、「上士幌町総合計画」や農村と都市の移住・交流による活性化「イムノリゾート上士幌構想」を通じ「上士幌の豊かな自然環境を生かした二地域居住・移住促進」を提唱。2021年に向けた「人口5,000人」のまちづくりを実現するため、取り組みを進めてきた。

PhilDoは2006年から、同町での地域活性化コンサルティングを開始(株式会社都市デザインシステム時代より事業を継続)。創立以来、多彩なオファーに応えてきたPhilDoの「まちづくり」の根幹は、このプロジェクトが一つのターニングポイントになっている。

町に訪れる「必然」をつくる

翻せば、観光資源や自然豊かな地域は“いくらでも”存在する。その中で、人々がわざわざ足を運び、移住の対象として考える「必然」を作ること。そして、その牽引役を誰が担うのかが課題となった。
 そこでPhilDoが着目したのが、「ヒト」である。地域住民のネットワークや、それぞれが持つスペシャリティを活用することが差別化に繋がり、町に訪れる必然となる。そのような視点から「ヒト」に焦点を当てた都市と農村の交流を目指す体験ツアー(P15)を実験的にスタートさせ、町の特産物を使った地産地消メニューの提供に加え、地元の様々な分野のプロフェッショナルを交えたアクティビティを展開した。

見えてきたのは、町には必然を生み出す素材(ソフト)が十分に存在すること。対して、ソフトを補完する中長期滞在が可能な施設や管理体制(ハード)が不足していること。そして、まちづくりが持続的に発展するためには、まちづくりに関わるメンバーにとっても利益となるビジネスモデルの構築が求められるということだった。

資源を生かすための仕組みづくりを
トータルプロデュース
ヒトと地域を繋ぐ町の案内人

数年にわたる実証実験を経てPhilDoが提案したのは、「NPO上士幌コンシェルジュ」※1の設立と同NPOを仲立ちとしたまちづくりだ。

移住・定住を促進するための新たな仕掛け作りと利益の創出。そして、ヒト・モノ・コト(ハードとソフト)をトータル的にコーディネートする発想から、同NPOでは多様化する取り組みを4つに集約。これまでのように地域活性の活動を産・官・民が各々に進めるのではなく、「旅行代理店事業」「新商品開発・物販販売事業」「不動産管理事業」「移住促進プロモーション事業」の枠組みを通し、相互的に町のブランディングを図った。ただし、NPOの立ち位置は “案内人”。事業活動の中心となるのは、あくまで地域の人々である。

※1 2010年6月組成。地元有志や町議会議員、首都圏の民間企業などで組織し、PhilDoからも理事2名を選任し、事務局として参画した。

上士幌まちづくりコンサルティングの
事業内容
観光・短期で滞在してもらうために
旅行代理店事業
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体験型ツーリズム「とよおか林間学校」開催

道内や首都圏からのファミリーを対象に、地域の観光資源をネットワーク化した体験型ツーリズムを企画・運営。町の魅力を開拓する実験的な取り組みだったが、参加者から好評を博し、合計10回の連続開催へ。廃校校舎(旧豊岡小学校)再活用して参加者の活動拠点とし、町の資源(自然、食、人)をフル活用したアクティビティを盛り込んだ。体験プログラムは「食」「学び」「体験」をキーワードに、野菜の収穫や乳搾り、地元食材を使った調理、糠平湖でのフィッシングやカヌー、白雲山登山、かまくら作りなどユニークなものばかり。子どもと大人が一緒に楽しめる内容になっている。

上士幌の日常が首都圏の家族にとっては特別な体験に。

JA青年部との農業体験交流ツアーを企画実施

小麦畑や小麦乾燥施設の見学など町の農業を体験するツアーのほか、町の生産物を使った料理を生産者と消費者が共に味わうイベントを札幌で開催。ツアーの修了後も両者の交流は続いており、地域と都市の交流の継続的な形として実績を残した。

「ジビエ料理ができるまで」エゾシカ狩猟見学体験ツアーを実施

道内で社会問題となっているエゾシカ被害の実際と、ハンターの役割について学ぶツアー。エゾ鹿猟へ同行し、「狩猟」→「解体」→「調理」→「試食」までを体験。エゾシカの有効活用策の一旦を担っている。

地域資源を活用した新商品の開発や販売
商品開発・物品販売事業
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町公認のショッピングサイト
「十勝かみしほろん市場」の管理・運営

十勝かみしほろん市場は上士幌町自慢の特産品がインターネットで気軽に購入できるショッピングサイト。ふるさと納税の感謝特典商品を開発し、取り扱うスキームを提案。年間80万円だった売上げを爆発的に伸ばした。

時代のニーズにマッチした「ふるさと納税」の仕掛け

町が運営していた「十勝かみしほろん市場」の企画・運営管理をコンシェルジュが一手に引き受けるとともに、当時制度化されたばかりの「ふるさと納税」を導入。同制度のポテンシャルの高さにいち早く目をつけたことで、社会の注目が集まるタイミングでスタートダッシュを切った。十勝かみしほろん市場の需要は飛躍的に伸び、新商品開発や売り上げの向上に直結。町の財政基盤や上士幌コンシェルジュの事業活動の安定化にも貢献した。

ふるさと納税特典の人気商品も購入できる。

アンテナショップ「haru」を札幌に出店

ふるさと納税で知られるようになった町の特産品をより多くの人に知ってもらうため、札幌にアンテナショップを出店。こだわりの素材を使ったオリジナルメニューのほか、店内には町を代表する象徴の熱気球をモチーフにした特注照明器具などを配し、町を感じられる空間を演出した。

羊解体レシピ制作

町内ゴーシュ羊牧場との共同で乳のみ仔羊の販売等に関する事業の検証をするため、札幌のイタリアンシェフ協力の下「乳飲み仔羊解体書付きレシピ」を制作、十勝かみしほろん市場での試験販売を実施。

羊肉を初めて扱う人にも分かりやすく丁寧な解説付き。

移住体験用住宅などの企画・紹介・管理
不動産管理事業
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モデル住宅のスキームを提案

移住希望者へ訴求するため、「北海道らしさ」をコンセプトにモデル住宅を企画・設計。 民間資金にて建設し、町がマスターリースを行うスキームを提案。元々は役場職員が対応していた「お試し暮らし」事業を民間が請け負うことでサービスが向上し満足度もUPした。竣工以来おためし暮らし体験者数は倍増している。

移住体験者が上士幌を体感出来るように、景観を意識。
テレビや布団、冷蔵庫など必要最低限の生活備品がそろっている。

生活体験住宅モデルハウス2号棟

生活体験住宅モデルハウス1号棟

町営住宅改修モデル住宅「十勝スカイ」竣工

公共住宅を賃貸移住用の住まいにリノベーションした『十勝スカイ』を企画・設計・施工(北海道大学建築計画学研究室との協同プロジェクト)。中長期の生活体験モニターを受け入れている。

町中市街地から離れた静かな環境が人気。

上士幌町の魅力を全国へ発信
移住促進プロモーション事業
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各種ウェブサイトの整備

NPOコンシェルジュのオフィシャルウェブサイトをはじめ、生活体験モニターの告知・募集を行う「移住.com」など、情報発信の窓口となる各種ウェブサイトをブラッシュアップ。時代に沿ったメディアを利用してのプロモーションを展開。

移住.com
https://www.ijyuu.com/
NPO法人 上士幌コンシェルジュ
http://www.kamishihoro.net/
十勝かみしほろん市場
https://www.kamishihoron-ichiba.com/

特産を用いた上士幌WEEKを開催

札幌に出店した町のアンテナショップ「haru」が期間限定で東京に出店。上士幌町の美味しい旬の食材を使ったメニューを提供したほか、特産品の抽選会なども行なった。

地域との取組み

かみしほろ情報館
観光案内・物品販売と併せて地域
コミュニティの拠点の一つとして機能
(上士幌観光協会委託事業)

地域コミュニティ誌
「かむかむ」毎月発行
(新聞折込・全戸配布)

上士幌町おもてなしマップ
毎年発行(無料配布)

内閣府:特定地域再生事業費補助事業採択上士幌町公共施設再編計画に伴い「公共施設等再配置計画書」を作成

老朽化した公共施設の再編について講演会やワークショップなどを行い、小規模人口を見据えた自立したまちづくりの将来について計画した。

北海道大学大学院工学研究院の協力も得て計画案を作成。

誰もが住みたくなる、活気のある町へ

町の認知度が高まるきっかけとなった「ふるさと納税」は、23年度の984万円(372件)を皮切りに、24年度1,595万円(969件)、25年度2億4,350万(13,278件)と年々増加し、28年度には21億2,482万円(95,183件)と飛躍的な伸びを見せている(26年度の納税額は全国3位)(表1)。同時に、納税の感謝特典発送窓口のである「十勝かみしほろん市場」の売り上げは、23年度の130万円から27年度には8億円を突破。集まった寄付金は、「子育て少子化対策夢基金」として積み立てられ「認定こども園・ほろん」の保育料無料化や高校世代までの子ども医療費助成などに活用されるほか、産業基盤の安定化を目的とした助成金などにも充てられている。

一方で、モデル住宅の竣工後、生活体験モニター利用者も順調に推移。ふるさと納税によって医療・福祉・介護・子育て支援が充実したことも呼び水となり、28年度までに総計73組135人の移住・定住に結びついた(表2)。同年の調査によると、十勝管内19市町村の中で唯一人口が増加した町として脚光を浴びている(十勝毎日新聞2017年1月17日付)。

当初の目的である「町の資源を生かしたニ地域居住・移住促進」に加え、町民にとっても暮らしやすい町へと変化した上士幌町。そして、同プロジェクトが地域住民のまちづくりに対する考え方に与えた影響は、大きかったことだろう。

  • 十勝かみしほろん市場の売上激増
  • NPO組成による雇用促進
  • 「上士幌町ふるさと納税・子育て少子化対策夢基金」を設立
  • 認定こども園「ほろん」開園